先日レンタルビデオ店に行き、
見たいDVDが無くがっかりしていましたら、
目の前に「木洩れ日の家で」というDVDがありました。
『年老いた女性が愛犬と愛着のある家で暮らす、その最期の時は…』
というような謳い文句の、
『年老いた女性』『愛犬』『最期』という言葉につられ、借りてきてしまいました。
昨年の4月に岩波ホールで上映され、話題となった作品だそうで、
ご覧になった方もいらっしゃることでしょう。
私はそんなヒット作とは知らずに借りてきました。
DVDの表の写真と違い、映画では全編モノクロの美しい画面が流れます。
この映画は2007年のポーランド映画で
グディニャ・ポーランド映画祭主演女優賞やサンフランシスコ国際映画祭観客賞など
様々な賞を受賞した作品です。
このシナリオは
女流監督ドロタ・ケンジェジャフスカが
実話をもとに
女優ダヌタ・シャフラルスカのために書きあげたものです。
主人公アニェラを演じたシャフラルスカは1915年生まれで、主人公と同年齢でした。
ワルシャワ郊外の緑に囲まれた木造の古い家に
愛犬フィラデルフィア(フィラ)と住む
91歳のアニェラ。
この年齢ですと子供家族と一緒に住むか、
老人施設に移るケースが多いのでしょうが、
アニェラは
自分が生まれ育ち、結婚、子育て、夫を見送ったその家を愛し、
そこに住み続けることを選んでいます。
彼女は
一人息子とこの家での同居を望みますが、
息子からも孫娘からも同居を拒まれ、
寂しい思いをします。
お嫁さんとも折り合いが悪く、
めったに会うことがありません。
後半、
息子やお嫁さんの本当の胸の内が
わかりますが、
アニェラにとっても私にとっても
意外なものでした。
アニェラは、
まだ足腰もしっかりしており、
家の買い取りを交渉に来た隣人の代理人を
追い返す程の気力と誇り高さを持ちつつ、
愛犬フィラと淡々とした日々を過ごします。
日課としている両隣の家を双眼鏡で覗くこと
(あまり感心した日課ではありませんが・・・)や
フィラとのやり取りがストーリーのほとんどを占めています。
フィラ
このフィラの表情がなんとも愛らしく、賢く、
犬を飼われている方なら、
思わず頷いてしまうシーンが多々あります。
このフィラの名演技、大したものです。
両隣の家は、成り金の愛人宅と思われる家と
若いカップルが子供たちに開いている音楽クラブです。
アニェラはは前者を嫌い、後者に好感を持っていました。
古い家とアニェラ
やがて
体調の不安を覚えるようになり、
自分の命が長くない事を察するアニェラ。
アニェラが下す最後の決断は予想がつくものでしたが、
アニェラが死を迎える場面は
胸を打つものでした。
「あなたも天国に来なさい」と
フィラに語りかけるアニェラのナレーションが
主人の死を察したフィラの仕草、表情に重なり
印象的なラストシーンでした。
近くには元気な子供たちの声。
生と死。
老後の暮らし方、そして
必ず訪れる死にどう向き合い、受け入れ、
生きているものに何を託すか・・・
もしアニェラのように長生きできるとしたら、
私には30年以上先の話ですが、
アニェラと同じ境遇に立てば、
私は同じ決断を下すことでしょう。
そして
私も愛犬にあのように見守られて旅立ちたいと
映画を見始めた時は、
木々の美しい色彩を見たいと思ったものですが、
モノクロの画面から豊富な樹木の色、木洩れ日を
想像するほうがよほど美しいのだと
感じさせてくれる映画でした。