2015年4月4日土曜日

「風の影」

今日ご紹介する小説「風の影」(上・下)は
バルセロナ出身のカルロス・ルイス・サフォンの作品です。

この本も
スペイン物を読みたいと思っていた私に
知人が勧めてくれたものです。

この本は
サフォンの5作目の小説でいくつかの賞を取っていて、
17言語、37か国で翻訳出版されています。



1945年のバルセロナ旧市街を舞台に
話は始まります。

10歳のダニエル少年が
父親に連れられて
「忘れられた本の墓場」に行き、
無名の作家フリアン・カラックスの
「風の影」という本と出合います。

ダニエルはすぐその本の虜になりますが、
その後16歳になった頃、
謎に満ちたフリアン・カラックスの足跡を辿るようになります。

バルセロナの旧市街のゴシック地区・・・ダニエルが通った道かもしれません
~2012.6.7 スペイン旅行にて~


そのうちダニエルは
不思議な運命の糸に操られるかのように
フリアンの人生をなぞるような道を歩き始めます。

35年ほど前のフリアンと同じような青春を過ごしていくダニエルは
フリアンと同じ結末を迎えるのでしょうか・・・

薄紫のジャカランダの花が咲くバルセロナの街
~2012.6.7 スペイン旅行にて~


この本は
スペインの現代小説では史上空前ともいえる超ロング・ベストセラーとなり、
早々と翻訳本の出たドイツでは「サフォン・マニア」という言葉が生まれ、
フランスでは2004年に最優秀外国文学賞を受賞しています。


小説の背景となる時代は
フリアン・カラックスの過去が横たわる19世紀末から1920年頃まで、
スペイン内戦時代、
ダニエルの現在が進行する1940年から50年代の内戦後の時代の
三つに分かれます。

19世紀末から20世紀初めのバルセロナは
経済においても芸術においても
内地の首都マドリッドとは全く異なる華やかな時代を迎えていました。
ガウディを輩出した時代でもあります。
独自の文化と言語を持つバルセロナでは
内陸部よりはるか以前から共和主義的な気運が支配しており、
1932年には自治政府を成立させました。

しかし
共和国の打倒を目指す軍部の武装蜂起により始まった内戦は、
1936年から39年にかけてスペイン全土を荒廃させていきました。


訳者のあとがきによりますと、
内戦時スペインの教会が武装蜂起した反乱軍につき、
内戦の大義そのものが反共の十字軍的性格を帯びていったこと、
この両者の結びつきが
内戦後、フランコ体制下の国家カトリック主義につながり、
庶民の生活習慣や精神活動に
大きな影響を及ぼしたということです。

このことを考慮して読むと
小説中の会話や人物の性格、行動などがより深く理解できます。

教会が反乱軍と手を結んだ背景には
共和制成立後スペイン全土に伝播したアナーキストによる教会の焼打ちと
聖職者の大量虐殺という惨劇があったそうです。

そのようなすべての暴力と恐怖のシンボルとなる人物が
この小説で重要な役割を果たしています。

バルセロナは1939年に陥落し、
以後40年近くにわたるフランコ総統の独裁が始まり、
その6年後
主人公ダニエル少年が
フリアン・カラックスの本と出合うのです。

カサ・バトリョのあるグランシア通り
~2012.6.7 スペイン旅行にて~

たった一言、真実を告げていれば
あのような悲劇は続かなかったのに・・・
小説であることを忘れてつい思ってしまいました。

訳も良くて読み易く、
歴史、冒険ミステリーであるとともに
何よりも
青春ラブ・ストーリーです。
お勧めの1冊です。


私は今回初めてサフォンの本を読みましたが、
本書以外にもバルセロナを舞台にしたものがあるようなので、
次はその小説を読んでみたいと思います。



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